気だるい体を長椅子に預けて目を閉じていると、
すぐ側からピアノとヴィオラの音が聞こえてきた。
ヴァイオリンとは違う、少しだけ声に近い音。弦の擦れる、音にならない音。
ピアノの音はハープのようで、けれど沈み込む倍音は余韻となって耳の後ろを掠め行く。
途切れ途切れに話すヴィオラを、優しく受け止めるピアノ。
どちらも控えめで寂しそうで、でも、泣きたくなるくらい確かな音。
私は休符を聞いている。音と音の狭間に立っている。
次の音を、これから来る美しいハーモニーを待っている。
当たり前のようにやってくる音楽を、全身で享受するために。
…ああ、まただ。私は固く目を閉じる。また、邪魔をされる。
このまま聞いていることは許されないのか。
このまま深く、身を委ねてはいけないのか。
(許さないのは誰なのか。)
留まりたい、もう少しここにいて、続きを、音を。
そうして、流れを堰き止める意識を、落胆と共に掴んだ。
うっすらと目を開けると、そこは見慣れたいつもの光景。私の部屋。
隣の部屋にキッチンがあるだけの、小さな木の家。
薄暗い部屋の窓には丘の向こうに輝くシリウスが見える。日はほとんど落ちてしまっていた。
ピアノもヴィオラも、もうここにはない。
今、鳴っていたのは、どんなメロディーだっただろう。
どんな音の重なりで、どんな……
遠くから糸車の回る音がする。
私は乾いた笑みを漏らした。
明りを付けなければ。